「ウチの経理、なぜか定着しないんだよな…」 「経理担当者って、なかなか良い人が採用できないし、育っても辞めてしまう…」
スタートアップや中小企業の経営者の方々から、そんな切実な悩みを伺うことがよくあります。給与や待遇を見直しても状況が変わらない…としたら、問題の根っこは別の場所にあるのかもしれません。
はじめまして!「楽して休みたい会計士」こと、シクミです。普段は会計や業務改善のコンサルタントとして、特にスタートアップや成長期の中小企業のバックオフィス効率化をお手伝いしています。
この記事では、多くの経営者が見落としがちな「経理が定着しない本当の理由」を探ります。それは、**経営者自身の「経理観」と、社内に蔓延る「業務の属人化」**の問題かもしれません。
この記事を読めば、経理人材が定着しない根本原因への気づきが得られ、彼らが「この会社で長く、そしてラクに働きたい」と思える環境を作るための具体的なヒントが見つかるはずです。経理担当者の方にも、「あるある!」と共感できる部分があるかもしれません。
それ、「コストセンター」思考かも? 経理が定着しない会社のよくある「勘違い」
まず、経営者の皆様に問いかけたいのは、「経理部門や経理担当者のことを、正しく理解していますか?」ということです。
よくある勘違いの一つが、経理を単なる「コストセンター」、つまりお金を生み出さず費用ばかりがかかる部門、と捉えてしまうことです。もちろん、経理業務にはコストがかかります。しかし、経理が担う役割は、単なる記帳や伝票処理だけではありません。
- 経営判断の羅針盤: 正確な月次・年次決算や試算表は、経営者が会社の現在地を知り、未来への舵を切るための基礎情報です。
- 会社の血液管理: キャッシュフローを管理し、資金ショートなどの致命的なリスクを防ぎます。
- 見えないリスクの防波堤: 不正やミスを防ぐ内部統制の構築・運用にも関わります。
- 社会との約束: 複雑な税務に対応し、適切に納税を行う、会社の信頼に関わる業務です。
これらはすべて、会社が健全に、そして効率的に成長していくために不可欠な機能です。にも関わらず、「経理はコスト」という認識が強いと、経理部門への適切な投資(効率化システム、教育機会、人員)が後回しにされがちです。その結果、経理担当者は過剰な業務負担を強いられ、スキルアップもできず、不満を募らせて離職してしまう…そんな悪循環が生まれます。
経理職は「どの会社でも必要で汎用性が高く、転職がしやすい」一方で、大きな不満がなければ「安定を求めて長く続けたい」と考える人も多い職種です。だからこそ、経営者がその重要性を理解し、適切な環境を提供できるかが、定着率を大きく左右するのです。
気がつけば「あの人」しか分からない… 孤独な経理担当者と「属人化」のワナ
中小企業の経理部門でよく見られるもう一つの根深い問題が、「業務の属人化」です。「経理は専門的だから」「大事な仕事だから」と、特定の担当者に業務が集中し、任せきりになっていませんか?
その結果、担当者は誰にも相談できずに孤立し、業務はブラックボックス化していきます。これは、担当者にとっても会社にとっても、非常に大きなリスクです。
特に経理担当者は、会社の根幹であるお金を扱うため、元々責任感が強く、ストレスを感じやすい傾向があります。相談相手がいない状況は、精神的な負担を増大させます。「社長や役員は忙しそうだし、こんなことで時間を取らせるのは申し訳ない…」そう考えて、一人で抱え込んでしまうケースは後を絶ちません。
私が見てきた中でも、非常に優秀で器用な経理担当者が、本来なら複数人でやるべき業務や、仕組み化されていない非効率な業務を、個人のスキルと頑張りでなんとか「それっぽく」回してしまっている、という状況は少なくありませんでした。しかし、本人は「その場しのぎ」だと感じており、一方で会社が成長して業務量が増えると、その負荷に耐えきれなくなり、燃え尽きて辞めてしまう…そんな悲しい結末を迎えることもあります。
そうなってからでは手遅れです。他の誰も業務内容を理解できず、作成されたExcelファイルはどんな判断基準で処理されているか不明、関連資料もどこにあるか分からない…。まさに会社の機能が停止しかねない、深刻な事態です。
経営者は、「あの人がいるから大丈夫」と安心するのではなく、属人化のリスクを認識し、それを防ぐ「仕組み」を作ることが急務です。
経営者が今すぐできる!経理が「辞めたくない」魅力的な会社にする環境づくり(脱・属人化と個別マネジメント)
では、どうすれば経理人材が定着し、活き活きと、そして「ラク」に働ける環境を作れるのでしょうか? 経営者が今すぐ取り組める、4つの重要な鍵と1つの視点をご紹介します。
- 鍵1:経理への「理解」と「尊重」を示す まずは意識改革から。経理はコストセンターではなく、会社の成長に不可欠なパートナーです。その重要性を理解し、担当者に敬意と感謝を伝えましょう。定期的にコミュニケーションを取り、彼らの意見(業務改善提案など)に耳を傾ける姿勢が、信頼関係の第一歩です。
- 鍵2:必要な「投資」を惜しまない(=経理もラクにする) 経理業務の効率化は、会社全体の生産性向上に直結します。時代遅れのツールや手作業に固執せず、会計ソフトの導入・更新、クラウドサービスの活用、RPAなどによる自動化といった、業務をラクにするためのIT投資を積極的に検討・支援しましょう。担当者のスキルアップのための研修機会提供や、業務量に見合った人員体制も重要な投資です。
- 鍵3:「脱・属人化」を会社として仕組み化する 担当者個人の努力に頼るのではなく、会社として属人化を防ぐ仕組みを作りましょう。業務マニュアルの作成を必須化し、更新しやすい形で共有する。情報共有ツールを活用し、業務プロセスをオープンにする。可能であれば、複数担当制やローテーションを導入し、互いにチェック・サポートし合える体制を目指しましょう。
- 鍵4:「相談できる相手・体制」を確保する 経理担当者が一人で悩みを抱え込まない環境が不可欠です。経営者自身も相談に乗る姿勢が大事ですが、「役員の時間を奪いたくない」という担当者の心理も理解しましょう。顧問税理士との連携を密にし、気軽に相談できる関係性を築く。可能であれば経理担当者をもう一人採用する。あるいは、外部の会計アドバイザーや経理代行サービスを部分的に活用し、専門的な相談ができる窓口を設ける、といった具体的な対策が有効です。
- 【重要視点】多様なキャリアと働き方を理解・支援する 経理担当者といっても、キャリア観やライフステージは一人ひとり異なります。「CFOを目指したい」人もいれば、「安定して長く働きたい」人もいます。結婚・出産・育児・介護など、ライフイベントによって優先順位も変わります。その多様性を理解し、個々の状況に合わせたキャリアパスの提示、柔軟な働き方(時短、リモート、副業など)の導入、適切な役割分担などを検討・支援する個別マネジメントの視点が、これからの時代、人材定着には不可欠です。
(補足)経理担当者自身が意識したいこと
経営者の意識改革と同時に、経理担当者自身も、自分の業務を「見える化」し、積極的に情報共有する努力や、経営層に分かりやすく伝えるコミュニケーションスキルを磨くこと、属人化させないためのマニュアル作成などを意識することが、自身の働きやすさ、そしてキャリアアップにも繋がります。
まとめ:経理定着は「コスト」ではなく「投資」。理解と仕組みで、会社も従業員もハッピーに!
「経理がすぐ辞めてしまう…」その悩みの根源は、多くの場合、経営者の「経理観」の勘違いや、担当者を孤立させる「属人化」という名の仕組みの欠如にあります。
経理は会社の土台を支える重要なプロフェッショナルです。彼らの専門性を尊重し、適切な投資を行い、誰かに過度な負担がかからないように業務を「仕組み化」し、安心して相談できる環境を整え、そして一人ひとりの価値観やライフステージに寄り添うこと。
これらは決して単なる「コスト」ではなく、**会社の持続的な成長と、従業員の幸福のための、最も重要な「投資」**なのです。
そして、その投資は必ずリターンをもたらします。経理担当者の定着率向上はもちろん、業務効率化によるコスト削減、内部統制強化によるリスク低減、そして何より、従業員が安心して「ラク」に、やりがいを持って働けるという、会社にとっても従業員にとってもWin-Winの状況を生み出すのです。
この「準備力」と「改善力」は、どんな業種・職種の事務職の方にも、いや、経理財務に関わるすべての人にとって役立つ普遍的なスキルです。
まずは、あなたの会社の経理担当者と、改めて向き合ってみませんか? 彼らの声に耳を傾け、働きやすい「仕組み」を一緒に作っていくことが、強い組織を作るための、そして皆がハッピーになるための第一歩となるはずです。


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