「監査法人」「公認会計士」…経理業務に携わっていると、必ずどこかで関わることになる存在ですよね。でも、実際に彼らがどんな人たちで、どんなキャリアを歩み、何を考えて仕事をしているのか、意外と知らないことも多いのではないでしょうか?
「なんだか厳しそう…」「専門用語ばかりで話が通じにくい…」そんなイメージから、監査対応に少し苦手意識を持っている方もいるかもしれません。
この記事では、監査現場を知るシクミが、監査法人の「中の人」のリアルな姿やキャリアパス、そして彼らが監査現場で何を考えているのか、その一端をご紹介します。この記事を読めば、監査法人や会計士に対する理解が深まり、日々のコミュニケーションや監査対応が、少しでもスムーズで建設的なものになるはずです。
1. 監査チームの「リアル」:彼らはどこから来て、何をしている?
まず、皆さんが監査の現場で実際に接することが多いのは、どのような人たちでしょうか?
- 若手中心のチーム構成とファーストキャリアとしての監査法人: 多くの場合、監査チームの最前線で実務を担当するのは、公認会計士試験に合格したばかりの新人や、経験数年の若手スタッフ、そしてチームをまとめるインチャージ(主査)です。彼らの多くにとって、監査法人は社会人としてのファーストキャリア。つまり、会計理論のプロフェッショナルではあっても、入所時点では事業会社の多種多様な経理実務や業界特有の慣習に精通しているわけではないのです。むしろ、日々の監査業務を通じて、クライアント企業からビジネスや実務を学んでいる、という側面も持っています。
- 監査チーム内の役割とプレッシャー: 監査チームは、スタッフ、インチャージ、マネージャー、パートナーといった階層で構成され、それぞれが異なる役割と責任を担っています。特に現場を仕切るインチャージは、監査計画の実行、スタッフの指導・監督、発見された論点の整理、上位者への報告など、多岐にわたる業務とタイトなスケジュール、そして監査の品質に対するプレッシャーの中で仕事をしています。
2. 公認会計士のキャリアパス:監査の先に見える多様な道
監査法人で働く会計士たちは、どのようなキャリアを歩むのでしょうか?監査法人がファーストキャリアとなる人が多いからこそ、その後の道は多岐にわたります。
- 監査法人内での昇進: スタッフからシニア、マネージャー、そしてパートナーへと昇進し、監査の専門性を高めていく王道のキャリアパス。
- 事業会社への転身:
- 経理・財務部門: 監査で培った知識と経験を活かし、事業会社の経理・財務のプロフェッショナルとして活躍。連結決算担当、開示担当、CFO候補など。私自身、監査法人にいた頃は「短信は監査範囲外だから」と、正直あまりモチベーション高く取り組めていなかったのですが、事業会社で実際に短信を作成する立場になると、東証との関係や、その数値が有価証券報告書の数値としてFIXしなければならないというプレッシャーから、開示時期が早くてもしっかり固める重要性を痛感しました。これは監査法人にいるだけでは気づけなかった視点です。
- 経営企画・内部監査など: 会計知識や分析能力を活かして、より経営に近いポジションへ。
- コンサルティングファームへ: 財務会計コンサルタント、M&Aアドバイザリー、再生コンサルなど、専門性を活かしたコンサルティング業務へ。
- 独立開業: 自身の会計事務所を立ち上げ、税務やコンサルティングサービスを提供する。
- その他: ベンチャー企業のCFO、公的機関、教育機関など、活躍の場は様々です。
このように、監査法人での経験は、会計・財務分野における多様なキャリアパスへの出発点となることが多いのです。
3. 監査人が現場で考えていること:「独立性」と「クライアントのために」の間で
では、監査人は監査の現場で、具体的に何を考え、何を重視しているのでしょうか?
- 「独立した立場」からの意見表明: 監査人の最も重要な使命は、会社の財務諸表が適正かどうかについて、誰にも左右されない独立した立場から意見を表明することです。これが時に、経理担当者から見ると「厳しすぎる」「融通が利かない」と感じられる理由かもしれません。しかし、この独立性こそが、監査報告書の信頼性を担保しているのです。
- 職業的懐疑心と「なぜ?」の追求: 監査人は、常に「本当にそうだろうか?」という職業的懐疑心を持って業務に臨みます。これは、不正や誤りを見逃さないためのプロフェッショナルとしての姿勢です。そのため、経理担当者の方に多くの質問をしたり、資料の追加提出をお願いしたりすることがあります。
- 「クライアントの力になりたい」という本音: 一方で、多くの監査人は、専門家としてクライアント企業の役に立ちたい、力になりたいという純粋な気持ちも持っています。特に、経理担当者の方が会計処理や内部統制について相談ベースで意見を求めてくれると、自身の知識や経験を活かしてサポートしたいと感じる人がほとんどです。
- 効率的な監査への願い(経理担当者へのお願い): 私が監査の現場にいた頃(当時はリモート監査などなく、1週間ほどクライアント先に常駐して資料を確認していました)、経理担当者の方には、ある程度資料を早めに、整理して提出していただきたいと常に願っていました。残念ながら、依頼した資料がなかなか出てこず、監査期間の最終日に「すみません、デスクの足元にありました…」と言われ、そこから慌てて減損のような重要な論点を検討しなければならない、といった事態も経験しました。そのような状況では、確認時間も限られますし、十分な検討ができないリスクも出てきます。意図的に情報を隠しているわけではないと信じたいものの、やはり監査人としてはある程度敵対的な印象を抱いてしまうこともありました。 だからこそ、会社にとってネガティブに見えるかもしれない情報や、判断に迷う会計処理こそ、むしろ早めに、未完成な状態でも良いので「相談ベース」で情報を共有してほしいのです。「こういう状況なのですが、どういう会計処理が良いでしょうか?」「こういうリスクがあるのですが、どう開示するのが適切でしょうか?」と一緒に着地点を探っていく姿勢は、非常にありがたいものです。監査人は、専門家としての力を発揮したいと思っている人がほとんどですから。 また、資料間の数字のつながりが分かるような参照メモがあったり、関連するファイル名が明記されていたりするだけで、私たちの作業効率は格段に上がります。そして何より、社内で情報がきちんと共有され、特定の「あの人」しか分からない、という属人化状態が解消されている会社の監査は、本当にスムーズに進みます。
4. 「見当違いな質問?」の裏側と、若手監査人との上手な「育て合い」
時には、経験の浅い若手監査人から「え?そこがポイントなの?」と感じるような質問が来ることもあるかもしれません。
その背景には、監査手続書に沿った形式的な確認であったり、単純な経験不足や情報不足であったり、様々な理由が考えられます。そんな時、一方的に「分かってないな」と突き放すのではなく、質問の意図を冷静に確認してみましょう。「それは〇〇について、具体的にどのような点をご確認されたいのでしょうか?」のように。そして、相手が理解できるように、根気強く、丁寧に情報提供することも、時には必要です。
ある意味、若手監査人を「育てる」という視点を持つことで、彼らがあなたの会社をより深く理解し、結果として監査の質が向上したり、無用な誤解を避けられたりすることにも繋がります。経理担当者と監査人が、お互いの専門性を尊重しつつ「育て合う」ことで、より良い監査関係が築けるのではないでしょうか。
まとめ:監査法人の「人となり」を知れば、監査はもっと実りある時間に変わる!
監査法人や公認会計士も、特別な存在ではありません。彼らもそれぞれのキャリアパスを歩み、専門家としての責任と誇り、そして時にはプレッシャーの中で仕事をしている「人間」です。
彼らの仕事内容や考え方、キャリアの背景を少しでも理解することで、監査対応への過度な恐れや誤解はきっと解けるはずです。
「怖い」「厳しい」というイメージから、「一緒に会社の信頼性を高めるパートナー」「困ったときに相談できる専門家」へと、監査人を見る目を変えてみませんか? 建設的なコミュニケーションと協力関係を築くことができれば、監査は単なる「チェックされる時間」ではなく、自社の業務プロセスを見直し、専門的な知見を得て、そしてあなた自身の成長にも繋がる、より実りある時間に変わるはずです。
この記事が、経理担当者の皆さんの監査対応への不安を少しでも和らげ、監査法人や会計士とのより良い関係構築の一助となれば幸いです。


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