「監査法人との『経営者ディスカッション』、いったい何をどこまで話せばいいんだろう…?」 「うちは経理担当者に任せきりだけど、会社の数字の細かいところまで、監査で根掘り葉掘り聞かれるのかな…?」
初めての監査を控えている、あるいは監査対応にはまだ慣れていない中小企業の社長や役員の皆様、そんな不安や疑問を抱えていませんか?
ご安心ください。この記事は、そんなあなたのための「監査対応の戦略的準備と心得」ガイドです。
監査は、会社の信頼性を高める上で避けては通れないプロセスですが、決して経営者を追い詰めるためのものではありません。むしろ、正しく準備し、ポイントを押さえた対応をすることで、監査法人に「この会社はしっかりしているな」という良い印象を与え、監査をスムーズかつ建設的に進めることができるのです。
この記事を読めば、経営者ディスカッションで何を話すべきか、どんな準備をすれば自信を持って臨めるのか、そして監査を会社の成長に繋げるヒントまで、具体的にお分かりいただけます。
さあ、監査への漠然とした不安を解消し、経営者としての自信を深める第一歩を踏み出しましょう!
1. なぜ経営者ディスカッションは重要? 監査人が社長・役員から「本当に聞きたいこと」
監査プロセスの中で、経営者の皆様に直接お話を伺う「経営者ディスカッション」は、私たち監査人にとって非常に重要な手続の一つです。なぜなら、会社の方向性を最終的に決定し、組織全体に影響を与えるのは、他の誰でもない経営者の皆様だからです。
では、監査人は経営者ディスカッションで、具体的に何を確認し、何を聞きたいと考えているのでしょうか? 細かい会計処理の知識を試す場では決してありません。私たちが最も知りたいのは、大きく分けて以下の2つの、会社の根幹に関わることです。
- 経営者としての「誠実性」と「公開会社としての倫理観」 まず、監査人が最も重視することの一つが、経営者の皆様の「誠実性」と、特に上場企業(あるいはそれを目指す企業)のトップとしての「倫理観」です。 一般的に私たちが「監査」と聞いてイメージするのは、株式市場に上場しているような「公開会社」に対するものでしょう。公開会社は、多くの株主から資金を集め、社会的な責任も負っています。そのため、経営者には「会社を私物化するような意識ではない」こと、つまり、一部の者の利益のためではなく、全てのステークホルダーのために公正な経営を行うという、パブリックカンパニーのトップとしての高い意識と倫理観が求められます。 監査人は、ディスカッションを通じて、経営者のコンプライアンス(法令遵守)に対する姿勢、社内不正に対する考え方、あるいは過去に問題が発生した場合の対応などを確認し、経営者が信頼に足る人物であるか、公正な経営を行っているか、という点を慎重に見極めようとします。これは、財務諸表全体の信頼性を評価する上での大前提となるからです。
- 「事業戦略」と「将来の見通し」を、ご自身の言葉で語れるか 次に重要なのが、経営者ご自身の口から語られる「事業戦略」と「将来の見通し」です。 私たちは、事業計画書や中期経営計画といった資料ももちろん拝見しますが、それ以上に、経営者がそれらの内容をどれだけ深く理解し、自分の言葉で、熱意と具体性を持って語れるかという点に注目します。 これまでの実績や事業の具体的な内容を踏まえて、将来の見通しをしっかりと説明できるか。事業を取り巻くリスクをどう認識し、対応しようとしているか。示された戦略や見通しに、経営者としての強い意志や覚悟が感じられるか。 単に「売上を〇〇億円にします!」という目標だけでなく、その目標に至るまでの具体的な道筋、その過程で想定される困難、そしてそれらをどう乗り越えようとしているのか。そういった、経営者の皆様の生の声と深い洞察を、私たち監査人は聞きたいのです。これらの情報は、財務諸表に計上されている「会計上の見積もり」の妥当性を判断する上でも、非常に重要な基礎情報となります。
経営者ディスカッションは、監査人が会社のトップの考えを直接知ることができる、かけがえのない機会なのです。
2. 「この社長、分かってるな!」と思わせる。”経営者ディスカッション”戦略的準備5ステップ
では、どうすれば監査人に「この社長は自社のことをよく理解し、真摯に対応してくれるな」という良い印象を与え、ディスカッションをスムーズかつ有意義なものにできるのでしょうか? そのための具体的な「準備のステップ」を5つご紹介します。
- ステップ1:監査の全体像と目的を再確認する まずは、今回の監査が何のために行われるのか、その目的と全体像を改めて理解しましょう。監査は「あら探し」ではなく、会社の財務報告の信頼性を高め、社会的な信用を維持するための重要なプロセスです。この基本認識を持つことが、建設的な対話の第一歩です。
- ステップ2:自社の「数字」と「事業」を魂込めて語れるようにする PLやBSの主要な数値はもちろん、その数字が示す意味、そしてその背景にある自社の事業戦略、ビジネスモデル、市場環境、リスク要因などを、経営者自身の言葉で熱意をもって説明できるように準備しましょう。数字の裏にあるストーリーを語れることが重要です。
- ステップ3:監査法人から事前に「聞かれそうなこと」を予測し、論点を整理する 監査法人からは、通常、経営者ディスカッションのアジェンダや主要な質問事項が事前に共有されることがあります。それを元に、特に重点的に聞かれそうな項目(例えば、重要な会計方針の変更、大きな設備投資、新規事業の状況、認識している事業上のリスクなど)を予測し、それに対する自社の考えや対応状況を整理しておきましょう。経理担当者とも事前にしっかり情報を共有しておくことが不可欠です。
- ステップ4:想定問答に頼りすぎず、「自分の言葉で語る」覚悟を持つ 事前に想定される質問と回答を準備することは大切ですが、それに頼りすぎると紋切り型の対応になりがちです。なぜその戦略なのか、なぜその判断をしたのか、その背景にある経営者としての「思い」や「哲学」を、自分の言葉で正直に、そして情熱を持って伝えることが、監査人の理解と信頼を得る上で非常に重要です。
- ステップ5:関連資料の準備と、経理担当者との「最終リハーサル」 ディスカッションで言及する可能性のある関連資料(事業計画書、予算書、重要な契約書など)は、すぐに提示できるように手元に準備しておきましょう。そして、最も重要なのは、経理担当者(CFOや経理部長など)と事前に十分な時間をかけて打ち合わせを行い、経営者と経理担当者の認識にズレがないか、説明内容に矛盾がないかなどを徹底的にすり合わせておくことです。重要な会計処理の判断根拠やリスク認識については、特に念入りに確認しましょう。
3. 監査法人からの「質問」も怖くない!社長・役員のための”賢い”応答術と心構え
しっかり準備をしても、当日は予期せぬ質問が来ることもあります。そんな時でも慌てず、経営者として毅然と、しかし賢く対応するための心構えと応答のコツをお伝えします。
- 基本姿勢は「誠実」かつ「オープン」に。ただし、根拠のない憶測は禁物 監査は、会社と監査法人の信頼関係の上に成り立つものです。質問に対しては、知っていることは正直に、誠実に答えましょう。情報を隠そうとしたり、曖昧にごまかしたりする態度は、かえって監査人の疑念を招き、監査が長引く原因にもなりかねません。ただし、分からないことや不確かなことについて、根拠のない憶測で答えるのは避けましょう。
- 監査人の「質問の意図」を理解しようと努める 監査人がなぜその質問をするのか、その背景にある懸念や確認したいポイントは何なのかを常に意識しましょう。もし質問の意図が分かりにくい場合は、「それは〇〇という点についてのご懸念でしょうか?」のように、丁寧に確認することも有効です。
- 具体的に、かつ簡潔に。結論から話すことも意識 監査人も限られた時間の中で多くの情報を処理しています。長々とした回りくどい説明よりも、まず結論を述べ、その後に理由や背景を具体的に、かつ簡潔に説明することを心がけましょう。
- 「分かりません」「確認します」も正直な回答。ただし「いつまでに」を明確に 全ての質問に即答できる必要はありません。すぐに回答できない場合は、正直に「現時点では正確な情報をお伝えできませんので、確認して〇月〇日までに回答します」と伝えましょう。知ったかぶりをせず、誠実に対応する姿勢が重要です。
- 経理担当者との華麗な連携プレーを 詳細な会計処理や具体的な数値データについては、無理に経営者自身が全て答えようとせず、「その点については、経理担当の〇〇から詳しく説明させます」と、適切に経理担当者にバトンタッチすることも重要です。日頃からの経理担当者との密な連携が、ここでも活きてきます。
4. 監査は「敵」じゃない!監査法人を「味方」につけ、会社を強くするチャンス
監査対応は、経営者にとって骨の折れる仕事かもしれません。しかし、視点を変えれば、監査は会社の弱点や改善すべき点を発見し、経営を見直す絶好の機会でもあります。
監査法人からの指摘や助言は、耳の痛いこともあるかもしれませんが、それらを真摯に受け止め、自社の内部統制の強化や業務プロセスの改善に繋げていくことが、会社の持続的な成長には不可欠です。
そして何より、監査法人は決して「敵」ではありません。彼らは会計と監査の専門家です。経営者が素直に現状を伝え、アドバイスを求める姿勢を見せれば、彼らは専門家としての知見を活かし、会社にとって有益な助言をしてくれる「頼れる味方」にもなり得るのです。特に会社がまだ整っていない初期段階であっても、その状況を正直に伝え、指摘を素直に受け止めて改善していく姿勢は、監査人からの信頼を得て、長期的に良好な関係を築く上で非常に大切です。
まとめ:戦略的な監査対応で、会社の信頼性を高め、経営者としての自信を深めよう!
監査対応は、経営者としての重要な責務の一つです。そして、その準備と当日の心構え次第で、監査は単なる「こなすべき義務」から、会社の信頼性を高め、経営を見直し、そして経営者自身の自信を深めるための「有益な機会」へと変えることができます。
監査法人に「この会社はしっかりしているな」「この経営者は信頼できる」という印象を与え、スムーズで建設的な監査を実現することは、結果として会社の社会的信用を向上させ、事業の成長にも繋がっていくでしょう。
「監査は会社の健康診断」とよく言われます。専門家である公認会計士としっかりと向き合い、協力して自社の「健康状態」を客観的に把握し、改善していく。その前向きな姿勢こそが、これからの時代を勝ち抜く経営者に求められています。
自信を持って、戦略的に監査に臨みましょう!


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