〇〇社長: 「シクミさん、うちの経理はベテラン社員に頼りっぱなしで、正直『あの人がいなくなったらどうしよう』と不安で夜も眠れないんですよ。新しい人もなかなか育たなくて、困っているんです…」
シクミ: 「なるほど、それは非常によくあるご相談ですね。多くの経営者の方が同じ悩みを抱えています。実は、その『特定の個人に業務が集中する状態』、つまり経理の属人化は、会社に目に見えない、しかし深刻な損失を与え続けているんです。」
シクミ: 「その不安は、単なる『人の問題』にとどまりません。採用難、不正リスクの増大、そして経営判断の遅れといった形で、知らず知らずのうちに企業の成長を阻害し、時には致命的な打撃を与える可能性さえ秘めているんですよ。」
シクミ: 「今回は、大手監査法人で多くの企業の経理実態を見てきた私『シクミ』が、その属人化がもたらす具体的な損失を数字で示し、さらにMBAで培った知見をもとに、どのようにしてその問題を解消していくべきか、具体的な『仕組み化戦略』をお話しさせてください。」
「属人化」が会社に与える見えない損失とは?数字で認識するリスク
経理の属人化がもたらす損失は、漠然とした不安として片付けられがちですよね。
しかし、実はこれは非常に具体的な「数字」で認識できるリスクなのです。
例えば、新たな経理担当者を採用しようとしても、専門性の高い業務を特定の個人が握っているため、教育コストが増大します。未経験者にはOJTが機能せず、経験者には即戦力になってもらうハードルが高くなるため、採用期間が長引くこともしばしばです。
これにより、採用活動にかかる時間や費用、さらに未配置期間の人件費相当額といった形で、年間数百万円規模の損失が発生するケースも珍しくありません。
また、属人化は内部統制の脆弱性を生み出します。監査法人時代、私は多くの企業の不正事例を目の当たりにしてきましたが、その根源には往々にして「特定の個人に権限と情報が集中している」という属人化の問題がありました。不正リスクが高まると、企業の信用失墜や法的措置による巨額の損失につながりかねません。
さらに、MBAで学んだ視点から見ても、属人化による情報伝達の遅延や意思決定の停滞は、競争優位性を失わせる致命的な要因となり得ます。正しい経営判断に必要なタイムリーな会計情報が得られないことで、ビジネスチャンスを逃す「機会損失」は、想像以上に大きな金額になる可能性を秘めているのです。
なぜ「属人化」が起こるのか?構造的な問題と心理的障壁
では、なぜこれほど深刻な問題であるにもかかわらず、多くの企業で経理の属人化が解消されないのでしょうか。そこには、構造的な問題と、人の心理が深く関わっています。
まず構造的な問題としては、業務フローが明確に言語化されていないこと、マニュアルが整備されていないことが挙げられます。特に中小企業では、「見て覚えろ」「聞けば教えてくれる」といった暗黙知に頼ったOJTが主流で、体系的な教育体制が不足しがちです。
また、適切なITシステムの導入が進んでいないことも原因の一つです。手作業や特定のExcelファイルに依存した業務では、誰もが同じように業務を遂行することは困難になりますよね。
一方で、人の心理的な側面も見逃せません。長年同じ業務を担当してきたベテラン社員の中には、「自分にしかできない仕事」であることに無意識のうちに優越感や安心感を抱いてしまうことがあります。これは決して悪意ではなく、長年の貢献に対する正当な評価を求める心理の裏返しでもあるのです。
そして経営者や管理職側も、「あの人がいてくれるから大丈夫」と、問題から目を背け、現状維持を優先してしまいがちです。目の前の業務に追われ、将来のリスクに対して優先順位をつけにくい、という心理も働いているのかもしれませんね。こうした構造と心理の複合的な要因が、属人化を根深くしているのです。
属人化を解消するための具体的ステップ:仕組み化戦略
属人化を解消し、誰でも経理業務を滞りなく遂行できる「仕組み」を構築するには、段階的なアプローチが必要です。
まず最初にすべきことは、「業務の可視化と棚卸し」です。現在行われている全ての経理業務を洗い出し、それぞれの担当者、頻度、必要な知識やスキルを詳細にリストアップしてください。この時、特定の担当者が握っている業務ほど、細かく分解して可視化することが重要です。
次に、「マニュアル作成と標準化」です。洗い出した業務それぞれについて、誰が見ても理解できる具体的な手順書やフローチャートを作成します。このプロセスで、非効率な業務や不要なタスクが見つかることもよくあります。会計システムへの入力方法、請求書の発行手順、月次決算の締め方など、あらゆる業務を標準化し、属人性を排除することが目的です。
三つ目に、「ITシステム導入と活用」を検討します。会計ソフトや請求書発行システム、経費精算システム、さらにはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入は、手作業を減らし、業務プロセスを標準化する上で非常に有効です。これにより、個人のスキルに依存しない、安定した業務遂行が可能になります。
そして、「多能工化とジョブローテーション」を進めることも重要です。一人の社員が複数の業務を担当できるように教育することで、突然の欠員にも対応できる体制を構築します。定期的なジョブローテーションは、特定の業務への依存度を下げるだけでなく、社員のスキルアップやモチベーション向上にもつながります。
最後に、「評価制度の見直し」も視野に入れましょう。属人化の解消や業務改善への貢献を正当に評価する仕組みを導入することで、社員が積極的に「仕組み化」に取り組むインセンティブを与えることができるはずです。大手監査法人で培った経験から言えば、これらは強固な内部統制を構築し、会社の持続的な成長を支える基盤となる戦略なのです。
まとめ
経理の属人化は、一見すると些細な問題に見えるかもしれません。しかし、その根は深く、企業の成長を阻害し、時には致命的なリスクに発展する可能性を秘めていることを、これまでの話でお分かりいただけたでしょうか。
「あの人がいなくなったらどうしよう」という不安を抱えたまま経営を続けるのは、非常にリスキーであり、精神的な負担も大きいですよね。これを機会に、経理業務を「仕組み化」することで、特定の個人に依存しない、強くしなやかな組織へと変革していくことが可能です。
仕組み化によって得られるものは、採用難の解消、不正リスクの低減だけではありません。タイムリーで正確な会計情報は、迅速な経営判断を可能にし、結果として企業の競争力向上、ひいては売上向上に直結します。ぜひ、今回の内容を参考に、貴社の経理体制を見直し、盤石な経営基盤を構築する第一歩を踏み出してください。


コメント