「社長」: 「シクミさん、うちの経理はベテランのAさんに完全に頼りきりなんです。Aさんが体調を崩して休むと、もう経理業務が滞ってしまって…。引き継ぎも進まないし、正直、この状況が怖くて夜も眠れません。」
「シクミ」: 「なるほど、それは本当にお辛い状況ですよね。多くの経営者の方が同じ悩みを抱えていらっしゃいます。
実はその『Aさんしかできない』という状態こそ、企業にとって最も厄介な『見えない負債』なんです。
一見、日々の業務が滞りなく回っているように見えても、実は大きなリスクと潜在的な損失をはらんでいます。今日はその本質と、具体的な解決策を一緒に考えていきましょう。」
経理の属人化が企業にもたらす3つの「見えない負債」
社長、あなたの会社だけでなく、私が監査法人時代に見てきた多くの中堅・中小企業がこの『属人化』という問題に直面しています。
この問題は単なる業務の遅延にとどまらず、企業価値を大きく損なう『見えない負債』となってしまうのをご存知でしょうか。
一つ目の負債は『業務停止リスクと機会損失』です。特定の社員しかできない業務が多いと、その社員が不在になった途端に業務がストップしてしまいますよね。
決算が遅れたり、支払いが滞ったりすれば、企業の信用を失い、最悪の場合、取引機会を逃してしまうことにもなりかねません。これはまさにビジネスの成長を阻害する大きな足かせです。
二つ目の負債は『不正リスクとガバナンスの欠如』です。業務プロセスがブラックボックス化すると、チェック機能が働きにくくなり、内部統制上の重大な脆弱性を生み出します。
私が監査で企業に入った際、真っ先にチェックするポイントの一つがこの属人化された業務プロセスでした。残念ながら、ここに不正の温床が隠されているケースも少なくありません。
そして三つ目の負債は『人材育成の停滞と組織力の低下』です。新しい人材が入っても、OJTすら満足にできない状況では、次の世代が育ちません。
結果として、組織全体のスキルレベルが向上せず、変化に対応できない硬直した組織になってしまうのです。これは長期的な視点で見ると、非常に大きな経営リスクと言えるでしょう。
属人化解消への具体的な3ステップ:仕組み化でバックオフィスを「攻め」に変える
では、この『見えない負債』をどのように解消していけばよいのでしょうか。私は大きく3つのステップで仕組み化を進めることをお勧めします。
第一のステップは『業務の可視化と標準化』です。まず、Aさんが普段行っている業務を詳細に書き出してもらいましょう。これを『見える化』することから全てが始まります。
それぞれの業務について、「誰が」「何を」「いつ」「どのように」行っているのかをフローチャートや手順書として明確にするのです。このプロセス自体が、業務の本質を見つめ直す良い機会となります。
第二のステップは『ITツールの導入と自動化の推進』です。可視化された業務の中で、繰り返し発生する定型業務やデータ入力などは、RPAやクラウド会計ソフト、経費精算システムなどを導入することで大幅に効率化できます。
例えば、経費精算システムを導入すれば、承認作業を含め月間数十時間の削減が可能になることも珍しくありません。これは単なる効率化ではなく、人件費削減にも直結する投資効果が期待できるのです。
そして第三のステップは『多能工化と人材育成』です。標準化された業務とITツールによって、誰でも一定水準の業務ができる基盤ができます。
その上で、複数の社員が異なる業務を担当できるようにOJTや定期的な勉強会を実施しましょう。これにより、特定の個人に依存しない、柔軟で強固な組織体制を築くことができるのです。
この3ステップを踏むことで、経理部門は単なる『守り』の部門から、データに基づいた経営戦略を立案する『攻め』の部門へと変革する可能性を秘めているのです。
属人化解消で得られる「未来への投資効果」:数字で語る攻めの経理戦略
仕組み化は一時的な負担と感じられるかもしれませんが、その先には明確な『未来への投資効果』が待っています。これは、私がMBAで学んだ組織論や経営戦略の視点からも非常に重要なポイントです。
まず、最も分かりやすい効果は『コスト削減と効率化』です。例えば、経費精算のデジタル化によって紙の管理コストや入力作業が不要になり、月間20%以上の業務時間削減を実現した事例は多数あります。
これは単純に人件費の削減だけでなく、社員がより付加価値の高い業務に時間を充てられることを意味します。空いた時間で経営分析や予算策定に深く関わることも可能になりますよね。
次に『ガバナンスと内部統制の強化』です。業務プロセスが標準化され、システムで自動化されることで、ヒューマンエラーや不正の介入する余地が大幅に減少します。
これは投資家や金融機関からの信頼を得る上でも不可欠な要素であり、企業の持続的な成長を支える強固な土台となります。監査法人出身として、この点は特に強調したいところです。
さらに、『企業の成長加速と戦略的経営への貢献』も見逃せません。属人化が解消され、効率化された経理部門は、正確かつ迅速な財務データを提供できるようになります。
このデータは、新規事業の意思決定やM&A戦略、資金調達など、企業の成長を加速させるための重要な羅針盤となるのです。
経理は、もはや過去の数字を集計するだけの部門ではありません。未来の経営をデザインするための『戦略的な情報ハブ』となり得るのです。属人化解消は、その第一歩と言えるでしょう。
まとめ
社長、経理の属人化は、まさに『見えない負債』としてあなたの会社の成長を阻害し、潜在的なリスクを高めています。
しかし、適切なステップで仕組み化を進めることで、それは『未来への投資』へと転じ、バックオフィスを企業の強みへと変えることができます。
「あの人しかできない」状態を「誰でもできる」状態に変えることは、単なる業務改善ではありません。それは、企業の透明性を高め、ガバナンスを強化し、そして何よりも、社員一人ひとりの生産性とモチベーションを高めることに繋がります。
この変革は、経営者であるあなたの強い意志から始まります。ぜひ、この機会に経理部門の仕組み化に着手し、攻めのバックオフィスで企業価値を最大化する一歩を踏み出してください。私がこれまで培ってきた知見と経験が、きっとお役に立てるはずです。


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