「シクミさん、うちの経理は本当に困っていて…いつも月末はバタバタで、特定の担当者が休むと業務が止まってしまうんです。引継ぎもなかなか進まなくて、正直、これって現場の甘えなんじゃないかと悩んでいて…。」
「なるほど、それは本当に辛い状況ですよね。毎月のルーティンが属人化していると、経営者の方にとっては『現場の努力不足なのでは』と感じてしまうのも無理はありません。
実は、その『現場の甘え』という見方は少し誤解なんです。経理の属人化は、単なる業務効率の問題ではなく、企業の存続を脅かす『見えない損失』を生み出しているケースが非常に多いんですよ。」
経理の属人化が招く「3つの見えない損失」とは?
経営者の方にとって、経理業務の属人化は「また担当者が休んで困っているな」という程度の認識かもしれません。
しかし、監査法人時代に様々な企業を目の当たりにしてきた経験から言えるのは、この属人化が財務諸表には現れない、深刻な損失を招いているということです。
まず一つ目は「機会損失」です。特定の担当者しかできない業務が多いと、新しい会計基準への対応やDX導入などの戦略的な取り組みに手が回りません。
二つ目は「リスク損失」です。担当者の離職や病欠で業務が滞ると、決算遅延や税務申告のミスにつながり、会社の信用失墜や追徴課税といった直接的な金銭的損失を招きます。
三つ目は「コスト損失」です。特定のスキルを持つ担当者に過度に依存することで、その社員の交渉力が不必要に高まり、本来よりも高い人件費を支払うことになっているかもしれません。これは隠れた人件費の高騰です。
数字で見る「属人化コスト」の計算式
「見えない損失」と言われても、具体的にどれくらいのインパクトがあるのかピンとこないかもしれませんね。
MBAで学んだフレームワークを使い、簡易的に属人化コストを算出してみましょう。
例えば、経理担当Aさんが担当する業務が全体の40%を占めており、その業務を他の誰も代替できないとします。
Aさんの年収が500万円の場合、Aさんが1ヶ月休むと、単純計算で約42万円分の業務がストップします。
この間、業務が滞ったことで発生する遅延損害金や、外部へのヘルプ依頼費、さらに経営判断の遅れによる機会損失を考えると、42万円はあっという間に膨れ上がります。
もしAさんが突然退職した場合、新たな人材の採用コストや教育コスト、そして業務引継ぎにかかるロスタイムを合わせると、数百万から数千万円のコストが発生することも珍しくありません。
これは企業が本来稼ぐべき利益を直接的に蝕む、まぎれもない損失なのです。
「仕組み化」で属人化リスクを利益に変える具体策
では、この見えない損失をどうやって防ぎ、むしろ利益に変えていくのか。
鍵は「仕組み化」にあります。これは「誰でもできる簡単な作業」にするということではありません。
重要なのは「誰がやっても一定の品質とスピードで成果が出せる状態」を構築することです。
具体的なステップとしては、まず「業務の可視化」から始めましょう。各経理担当者が行っている業務を詳細に書き出し、フローチャート化するのです。
次に、「標準化」です。業務マニュアルを作成し、特定の判断基準や手順を統一します。これにより、誰が担当しても同じ結果が出せるようになります。
さらに、「システムの導入」も有効です。会計ソフトの連携やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用は、手作業によるミスを減らし、業務の効率を飛躍的に高めます。
そして、「複数人体制での業務分担」も意識してください。重要な業務には必ず複数の担当者を割り当て、定期的にローテーションを行うことで、属人化の解消とスキルアップを両立できます。
まとめ
経理の属人化は、一見すると些細な問題に見えても、企業の基盤を揺るがす深刻なリスクを秘めています。
それは単なる「現場の甘え」ではなく、経営戦略として真剣に向き合うべき「見えない損失」です。
業務の可視化、標準化、システム導入、そして複数人体制での運用という「仕組み化」を通じて、このリスクは確実に回避できます。
それどころか、効率化によって生まれた時間は、未来に向けた投資や、より戦略的な経理財務活動へと振り向けることが可能になります。
今こそ、貴社の経理体制を見直し、属人化という隠れたコストを利益へと転換するチャンスではないでしょうか。

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